善意で依頼を引き受け続けたクリエイターが、追加作業や連絡に追われ、自分の首を絞めてしまっている仕事現場のイメージ

なぜ「無料」の感覚が、日本のイノベーションを止めてしまうのか

──デザイン・Web・写真・映像の現場で起きている、消耗の構造

クリエイティブは、なぜこんなにも“簡単そう”に見えるのか

私は、デザインを入口に、Webサイト制作、写真、映像、そしてドローンへと仕事の領域を広げてきました。

分野は違っても、どの仕事にも共通していることがあります。

外から見ると、驚くほど苦労が見えない。

「シャッターを押すだけ」
「ドローンはおもちゃを飛ばしているだけ」

そう言われた経験は、一度や二度ではありません。
多くの場合、悪意があるわけではなく、素直な感想なのだと思います。

ただ、その言葉の奥には、「サービスは、できれば無料か安価であってほしい」という、日本社会に根づいた無意識の感覚があるように感じます。

クリエイティブは、日本の「無料」感覚を浮き彫りにしやすい

技術が進化して、「できる人」が増えた分野ほど、仕事が“簡単そう”に見えます。
デザインも、Web制作も、写真も、映像も、そしてドローンも同じです。

けれどそれは、プロの仕事が簡単になった、という意味ではありません。

企画や設計、段取り。
意図の整理。
トラブルを起こさないための準備。
失敗の蓄積。
そして、判断ミスを引き受ける責任。

こうした積み重ねの上に、ようやく「成果物」が成り立っています。

その背景が見えないと、仕事は「作業」に見えてしまう。
結果として、価格だけが比較され、質を上げようとする人ほど消耗していく。

これは、個人の資質の問題ではなく、そうなりやすい構造なのだと思います。

高まる「なんでも屋さん」志向の正体

「これなら自分でもできそうだ」
この感覚自体は、自然なものです。問題は、その先です。

専門性が軽く扱われる。
経緯や判断の価値が見えなくなる。
「ついでにこれも」が、少しずつ増えていく。

結果として、プロが“なんでも屋さん”になっていく。

良くしようとする人ほど、期待に応え、無償の工数を積み重ねてしまう。
そして、あるところで、こう思うのです。

「良くしようと思ってやっていることが、結局、自分の首を絞めているのではないか」

それが「標準」になってしまう瞬間

こんな経験をしたことがある人も、多いのではないでしょうか。

クライアントのために、
「ここも直しておきますね」
「ついでにこれもやっておきます」
と手を動かす。

その場では感謝されるし、喜んでもらえる。
だから断れない。

けれど気づいたら、想定していた工数は倍になっている。
ただ、その増えた分を、あとから請求するのは難しい。

そして次の仕事では、それがいつの間にか
最初から含まれている前提」になってしまう。

これは、誰かが悪いという話ではありません。
良くしようとする姿勢と、期待が静かにすれ違った結果、とても起きやすい構造なのだと思っています。

「手軽さ」の裏で、確実に積み上がるコスト

機材の導入・維持費。
準備や下調べにかかる時間。
失敗やトラブルへの備え。
判断ミスを引き受ける責任。

「簡単そう」というイメージが先行すると、これらは、なかったことにされてしまう。
その状態では、持続する仕事にも、事業にもなりません。

「良いものを安く」という文化の限界

日本人は、品質の高いものを好みます。
それ自体は、とても素晴らしい文化です。

ただ同時に、
「できるだけ安く」
「できれば無料で」
という期待も、根強く存在します。

この感覚が続く限り、

  • 開発に十分なお金をかけられない
  • 失敗が許されない
  • 新しい挑戦が生まれにくい

という状況が繰り返されます。

基盤技術があっても、そこから価値あるサービスが育たない。
それは、価値に対して対価を払う前提が弱いからかもしれません。

「ありがとう」だけでは、続けられない現実

私は、金銭的な報酬以上に、
「ありがとう」と言ってもらえることにやりがいを感じてきました。

今も、その気持ちは変わっていません。

ただ現実として、
時間は有限で、
機材や環境にはお金がかかり、
収入は簡単には増えない。

その影響は、自分だけでなく、家庭にまで及ぶことがあります。

正直に言えば、この仕事をやめようと思ったことは少なくありません。

それでも、ここで伝えたいのは愚痴ではありません。

クリエイティブの仕事には、成果物の裏に、必ず「経緯」と「責任」がある。
それを、少しだけ想像してほしいのです。

大切なのは「価格」より「経緯」を見ること

なぜその金額なのか。
なぜその工程が必要なのか。

そこには、判断、準備、失敗、引き受けているリスクがあります。

それを理解した上で依頼する仕事は、お互いにとって、健全で、長く続きます。
逆に、経緯を見ずに価格だけで選ぶと、どこかで必ず歪みが生まれます。

結論:「無料」という幻想を手放すところから

「無料」や「手軽さ」への期待は、悪意から生まれるものではありません。
ただ、その感覚のままでは、良くしようとする人ほど、消耗してしまう。

価値には経緯がある。経緯には時間とコストがかかる。
その当たり前を、少しずつ取り戻していくことが、日本のイノベーションにとっても必要なのだと思います。

もしこの記事を読んで、
「そうか、クリエイターって大変なんだな」
「ちゃんと経緯を理解しないといけないな」
そう感じてくれた方が一人でもいたら、この文章を書いた意味はあったと思っています。

もちろん、クリエイターに限らずどの仕事でもこうした共通点はあります。今回は自分の仕事の視点に立って記事を書いています。

最後に

これは、答えを提示するための文章ではありません。

ただ、デザインや写真、映像といった仕事を続ける中で、多くの人がどこかで直面する違和感を、一度きちんと立ち止まって言葉にしてみたものです。

読み手それぞれの立場で、受け取ってもらえたらと思います。


この季節は空気が澄んで、遠くまで見渡せます。
そんな環境にいると、ごまかしも、よく見えてしまう気がします。

だからこそ、
正直な仕事が、ちゃんと報われる世界であってほしい。
そう思いながら、いまもこの仕事を続けています

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